「本当にあの子がそんなことを?」Uさんは驚いたようにそう聞き返してきました。嘘ではありませんでしたが、これをUさんにお伝えするのは賭けでした。
今後の二人の関係に影響を与えてしまう可能性があるため、伝え方に十分注意しなければならないと思いながら切り出したことでした。
「そうだったの…。知らないうちにあの子にも無理させてたのね。気付いてやれなくて悪いことしたね。」と、Uさんは項垂れました。
「でも、Nさんは本当にUさんのことを大切に思っているんだと思いますよ。だから、少しだけ休めればまたこれからも変わらない生活を送っていけるんじゃないですかね?」
「うん、そうだね。あんたの言う通りかもしれない。ここはあの子のために私が頑張らなきゃいけないときなのかもね。泊めてもらってもいいのかい?」
Uさんは宿泊をすることに納得し、その日は泊まることができました。夜中に一度だけトイレに起き、そのときに再び「帰らなくていいんだっけ…?」と混乱した様子があったようですが、私との会話を介護職員が伝えると、「そうだったかしら。」とベッドに戻ったということでした。
翌日、無事に宿泊を終えたUさんは元気に家へ帰っていきました。Kさんと長男の奥様にもお電話にて報告しました。
奥様はとても感激し、「本当に職員の皆様は大変だったことと思います。でもさすがはプロですね、本当にありがとうございました。今後も利用できると嬉しいです。」と仰っていただけました。Kさんも安心したようで、「今後ともよろしく」と喜んでおられました。
このようにして初回はどうにか乗り切りましたが、これで今後も継続的に利用できるとは限りません。次回利用のときに今回のことはリセットされているだろうと思いました。しかし根気強くお付き合いをしていくしかありません。今回、この施設でUさんが不快な思いや不安な体験をしなかったことは次へと繋がる一歩となるはずです。一度でもそのような体験をした場合、認知症の方であってもそのような記憶や嫌なイメージだけは残り、その場所に来るだけで嫌悪感を示す人というのは少なくないからです。