どうにかこうにか誤魔化しつつ、施設まで来ることができました。
お迎えのときに同席してくれたケアマネKさんから、「なんか無料でご飯が出てゆっくり過ごせる場所があるみたい。気になるからUさんちょっと様子見てきてよ!そこにお薬の相談をしたい人もいるみたいだし。」と言われたこともUさんの背中を押したようでした。
そして、日中の時間はいろいろなお話をしながら穏やかに過ごすことができました。他利用者とトラブルになってしまうことをKさんは懸念していましたが、初めての場所にUさんもやや構えていたのか、そのようなことはありませんでした。
問題は夕方になってからでした。窓から見える景色が段々と薄暗くなっていくと、Uさんの様子は変わりました。
「私、そろそろ帰ろうかしら。Nちゃんが心配するし。」と、そわそわ動き始めたのです。「Uさん、ここはホテルみたいに泊まることもできるんですよ。Kさんも様子を見てきてほしいって言っていたし、今夜は試しに泊まってみるのはどうでしょう?もちろん専用のお部屋もご用意していますし、快適なんですよ。」と職員が語り掛けましたが、「そんなわけにはいかないわ。私は帰らなければいけないの。」と、聞く耳を持ちません。
職員から、「どうにもこうにも納得していただけません。」と内線が入ったため、私はUさんの下へ向かいました。今日初めて会った介護職員に比べると、Uさんは面接時にも会っている私にいくらか気を許しているようでした。
「Uさん、どうしました?」と声をかけると、「私そろそろ帰ろうと思うのよね。」と帰り支度をしているところでした。それを止めることはせず、隣に座って話をすることにしました。
「Nさんって、素敵な息子さんですね。」私がそう言うと、Uさんはぱっと顔をほころばせ、「そうなのよ!自慢の息子なの。すごく優しくてご飯とかいろいろやってくれるのよ!」と、自分が日々いかに世話になっているかを活き活きと話し始めました。
「Nさん、お母さんのことをとても大切に思っているからそんなふうにしてくれるんですね。でも、少し疲れてしまったみたいなんです。ほんの少しお休みができたらいいなって思っているみたいなんですよ。だから、今日はUさんがここに泊まってくれたらNさんも少しゆっくりできるんだって、そう言ってましたよ。」