ほんの一週間ほどNさんの行動記録をつけていただけですが、このような言動がいくつも見受けられました。Yさんの報告通り、もうこれまでのようにユニット介護を1人で任せることはできません。しかし、私はこれを理由に辞めてもらうということにも気が進まず、やりきれない思いでした。Nさんの仕事ぶりは今までずっと見てきたため、とても真面目でこの仕事や利用者さんと関わることが好きであることはよくわかっていました。
「どうにかならないでしょうか?退職以外の道を…」上司に今後のNさんの処遇について相談しました。普通の会社であれば、仕事に支障が出るとわかった時点で退職を勧告されるでしょう。しかし、私の勤務先は社会福祉法人の運営する福祉施設です。認知症のある人もない人も、皆がその人らしく生活することができる地域づくりを目指して仕事をしています。Nさんにとって、このままここで利用者さんと関わっていることがNさんらしい生き方なのではないか?という私の思いを上司もわかってくれました。
そして、Nさんには仕事内容を変更してもらう形でこの施設に残ってもらうという案が出ました。具体的には、利用者に直接触れない清掃業務をお願いできないだろうかというものでした。もちろんNさんが了承してくれたらの話です。そこで、本人に話をする前に緊急連絡先であったご主人に連絡を入れることにしました。
「突然お電話を差し上げて申し訳ありません。実は最近のNさんの様子についてなのですが…」と、ここ数日のことをお話ししました。すると、ご主人も異変には気付いており、Nさんはすでに病院を受診して認知症と診断されているという返答でした。進行を遅らせる薬も服用しており、本人も自分の異変には気付いているようだと仰っていました。業務内容の変更についてお伝えすると、「家内がいいなら、なんでも良いです。施設さんに迷惑かけることになっても困りますからね。」とのことでした。