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【第3回】 在宅生活不可能となり緊急入所したご夫妻 ~Tさんの気持ち~

担当ケアマネージャーは在宅生活を諦め、入所先を探すことが現実的と考えていました。ご家族も同様の考えでした。無理せず、誰かの目が届くところで安全に穏やかに暮らしてほしいと思っているようでした。SさんはTさんがいるのであれば施設であっても構わないようで、Tさんも当初は入所先があるのならばその方が安心というご意見でした。しかし、Tさんはショートステイの利用が長引くにつれ、やはり自宅で暮らしたいという思いが強くなっていったようです。

 

娘さんが面会に来る度に「お父さん、もう一人で歩いてトイレに行くことも難しいでしょ?おうちじゃ転んでも誰も助けてくれないでしょ?だからおうちは難しいよね。」と説得していました。そう言われると、Tさんは「そうだよね。」と同意していましたが、娘さんが帰ったあとは「家でもどうにかなるんじゃないかな?」と職員に話していました。

 

きっと、頭ではわかっているのだろうと思いました。娘さんの言っていることも、今の自分の状態では自宅で生活することが難しいことも、全てわかってはいるけれど気持ちの面で踏ん切りがつかないのでしょう。Tさんはなかなか入所の話に前向きになれませんでした。この頃、タイミング悪く夫婦部屋の空いているという施設が見つかりました。金銭的にもご夫妻の年金で払っていける範囲内でした。しかし、娘さんからTさんにこの話をしたところ、Tさんは難色を示しました。娘さんはやっと見つかったのだから絶対に入所した方が良いと説得をしましたが、とうとうTさんは首を縦に振りませんでした。そして、自らその施設へ電話をしてお断りしてしまったのです。

 

これには娘さんが怒ってしまいました。「お父さん一人の問題じゃないんだからね!」そう言って居室を出て行ったところを偶然目にしました。

 

このままでは家族関係も悪くなってしまう、そう感じました。しかし、Tさんの気持ちも理解できます。誰だって自分の家で暮らすのが一番良いに決まっています。今のショートステイでの生活も、Tさんにとっては快適とは言えないのでしょう。私は、ご夫妻にとって良い道はどこにあるのかしばらく考えていました。

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