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【第4回】糖尿病のSさんと、好きなものを食べてほしい家族 ~この症状は何か?~

看護師の言うことは、もちろんよくわかりました。医療職の人間であれば確かに見過ごすことはできないのかもしれません。しかし、私は介護上がりの人間です。介護は「生活」を支えることです。

 

「もちろん、リスクについては今回の説明だけでなく繰り返しお話ししていきます。奥様にも必要であれば直接お話しします。その上で、ご家族様が『このようにお菓子をあげてはいけない』と思って止めるのであれば問題はないですが、『施設にダメと言われたから止めた』のであれば、意味がありません。いろいろな考え方があるし、幸せの形は人それぞれなんです。命を縮めたとしても最期まで好きなものを食べて過ごしたいと思う人もいるんです。それを私たちが禁ずることはできない。その人の人生はその人のものですから。」

 

私の言葉に看護師はあまり納得していないようでしたが、私はこうも続けました。「施設は病院ではないんです。Sさんは治療をするためにここにいるわけではない。ここで『生活』をしているだけです。生活の全ての選択権はご本人とご家族にあります。私たちにできることは、リスクや可能性を伝えることだけです。その上で選択するのはご本人たちです。」

 

施設には、職種の違う者同士が連携しながら働いています。職種が違えば当然考え方も異なり、このように互いの考えが衝突したり意見が食い違うこともよくあります。しかし、ご利用者の幸せを追求するという姿勢はどの職種も共通して持っていなければならないものです。

 

その後も奥様は変わらず面会にいらしていました。私たちはさり気なく様子を見ていましたが、長女様から話があったのかしばらくお菓子をあげる様子は確認できませんでした。しかし、半月ほど経った頃にまたしても介護士より報告が入ります。奥様が帰ったあと、部屋のテーブル上に砂糖のようなものが落ちていたのでSさんに聞いてみると、ドーナツを食べたことがわかったというのです。これには、やはり奥様にも一度直接話をしなければいけないなと思いました。

 

その数日後、介護士から連絡があり私はSさんの部屋へ向かいました。「Sさんの足に黒い斑点のようなものがある」というのです。看護師もすでに到着しており、一緒に確認しました。両足の裏に、無数の黒っぽい小さな斑点がありました。足先の方までいくつか確認でき、ご本人に痛みや違和感はないようでした。

 

「これ、なんでしょう…?」介護士がそう聞くと、看護師が答えました。「これだけでは確かなことは言えませんが、部分的に壊死が始まっているんじゃないでしょうか。Sさんの血糖状態であれば考えられないことではありません。」

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