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【第5回】糖尿病のSさんと、好きなものを食べてほしい家族 ~二度目のカンファレンス~

数日後、奥様と長女様をお呼びして再度カンファレンスを行うことになりました。

 

「先日も長女様にはお話しさせていただいたことではありますが、現在Sさんは血糖コントロールのため、食事制限をしています。はっきり申し上げて、状態はあまり良くありません。今後も引き続きカロリー制限が必要となってきます。」

 

奥様はこちらの話を穏やかな表情で聞いていました。私は事前にiPadで撮影しておいたSさんの足の写真をお見せしました。

 

「先日長女様とお会いした後に発見したものです。現在、このような斑点がSさんの足にいくつもあります。医師に見てもらわなければなんとも言えませんが、血糖コントロールが上手くいっていないことによるものである可能性も考えています。」

 

「え…?」奥様の表情が少し強張りました。

 

「確かなことは私たちにもわかりませんので、ご希望されるのであれば病院へ行って診てもらってください。しかし、今回のこの症状が糖尿病と関係のないものだったとしても、カロリーのある間食を続けていけば必ずなんらかの形でその影響が出てくると思います。手足が壊死してしまったら、切断を余儀なくされる場合もあります。」

 

「切断…。」ぽつりと呟いて、奥様が俯きました。「だからね、お母さん。なんだか会いに行く度にいろいろあげているみたいだけど、それはダメよってことよ。この間も話したけどね、施設の方は心配してくださっているのよ。」と、長女様が奥様へ諭すように言いました。

 

「私たちは、やめてくださいというお願いをしているわけではありません。しかし、リスクをきちんと理解していただいた上で決断していただきたいのです。ご家族として、Sさんに好きなものを食べてほしいという思いがあることはとてもわかります。私にも家族がいますし、それは当然のお気持ちだと思うのです。Sさんのためにどうすることが良いのか、よく話し合って考えていただければと思います。」

 

「何度もお時間を作っていただいてすみません。もう一度家族で話してみます。」長女様がそう言ったのとほとんど同時に奥様が口を開きました。

 

「あの、主人はクッキーやチョコレートが大好きなんですけど、私の顔を見ると何か甘いものないか?って聞くんですけど、いつも食べているものなんて大した量ではないんです。それでも、ほんの少しのチョコレートでも切断とかそんな恐ろしいことになってしまうんですか?」

 

奥様は、涙をこらえて震えていました。

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