私が特養に相談員として勤務していた頃、Nさんという非常勤の介護職員の方がいました。69歳の女性で、入職して4年ほど経つ方でした。常勤職員と同様に、10人の利用者を1人で見るユニット介護を任されていました。
いつも元気で明るく、利用者さんからも職員からも好かれていました。介護に関する資格は何も持っていませんでしたが、現場で身につけた介護技術は確かなものでした。観察の目も鋭く、利用者の異変を早期に発見することも多々あり、他職種の職員からも信頼されていました。利用者さんの話にワッハッハと豪快に笑う姿が印象的な方でした。
そんなNさんの異変に最初に気付いたのは、同じユニットに配属されていた常勤職員のYさんでした。ある日私は、「あの、ちょっと相談があるんですけど…」と呼び止められ、Yさんと話をすることになりました。
「Nさん、最近ちょっと変なんです。」そう言われたとき、私はその意味がわからず、「変って、どういうこと?」と聞き返しました。そして、次にYさんの口から出た言葉に私は思わず目を剥きました。「…認知症じゃないかと思うんです。」
「えっ?まさか。」と思わず返してしまいました。私はその日の朝もNさんと行き合い、いつもと何も変わらぬ挨拶を交わしていたため、俄かには信じることができなかったのです。しかし、Yさんは真剣な顔で話を続けました。「本気でそう思ってるんです。冗談でこんなことは言いません。Nさんをシフトからはずすべきです、もう1人でユニットに入れるのは危険だと思います。」
Yさんは、入社2年目の女の子でした。少しおっちょこちょいなところがありますが、とても真面目で利用者さん思いの良い職員です。人と争うことは嫌いで、どちらかというと大人しい子でした。そんなYさんがこんなにも強くNさんのことを訴えてきたのはとても衝撃的でした。