施設側からは、特養という施設の性質上最期までここで生活していただくこと自体にはなんの問題もないが、現在のKさんのような状態では特養での生活を続けていくことは難しいのではないかという話をしました。
これからどのようにしていくことが良いのか、時間をかけて話し合っていきましょうとお伝えしました。
ご主人は、「いや、私だって妻がこんなに帰りたいと言っているのだから帰してあげたいという気持ちはありますよ。でも、現実問題もう自宅で2人の生活は無理だと思いませんか?そうしたらもうここに入っていてもらうしかないでしょう。」とうんざりした顔で訴えてきました。
どうやらご主人の頭には、自宅で自分が介護をするか施設に入るかという2択しかないようだと感じました。そこで、今一度在宅サービスで利用できるものの話をしました。
ご主人にその気があるのであれば在宅介護サービスを最大限使いながら自宅で生活することも不可能ではないと思われることもお伝えしました。Kさんは車椅子には乗っているものの立てないわけではありません。トイレや入浴にはもちろん介助が必要ですが、ヘルパーやデイサービス、ショートステイなどを併用しながら在宅介護をしている方でもっと介護度の重い方は沢山います。
ご主人は返答に窮しておりましたが、「家内とももう少し話して、考えてみます。施設の皆さんにはご迷惑をおかけします。」と言ってその日は帰られました。
施設としては、この場所でKさんが幸せな余生を送ることができるのであればこのまま生活をしていただくことになんの問題もありません。しかし、ご本人も家族も幸せではない現状は、やはりどうにかしなければならないと思いました。Kさんにとってどうすることが最善の方法なのか答えは見つからないままでしたが、ご主人と一緒に考える土台に立てたことは良かったのかなという気がしました。
Kさんも「考えてみます。」と言ったご主人の言葉が嬉しかったのか、それからしばらくは外へ出て行ってしまうことがなくなりました。