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【小説風事例紹介】在宅生活不可能となり緊急入所したご夫妻

time 2017/07/01

【小説風事例紹介】在宅生活不可能となり緊急入所したご夫妻  関連記事:社会福祉士を目指す方に読んでもらいたい事例をまとめました  

 

1.緊急入所

私がショートステイの相談員として働いていた頃、一組のご夫婦が緊急入所してきたことがありました。通常ショートステイというものは事前に予約をとって利用するものですが、生命の危機が迫っている場合や緊急時に限り、部屋が空いていれば急遽利用することも出来ます。今回お話しするA夫妻は、近隣の地域包括支援センターから連絡が入りその日の夜から入所することになったケースです。

 

その日、担当ケアマネから連絡を受けたとき、A夫妻は近くの整形外科に入院していました。85歳のご主人と80歳の奥様の夫婦二人暮らしの家庭でした。近くに娘さんが一人いましたが、大阪に単身赴任しているご主人の下へ一週間ごとに行ったり来たりする生活を送っていました。奥様のSさんは姿勢良くスタスタと歩く若々しい印象の方でしたが、中度の認知症がありました。言葉によるコミュニケーションは可能でしたが記憶は全く持続せず、同じ話を何度もします。また、汚してしまった下着をタンスにしまって忘れてしまうということが時折ありました。ご主人のTさんは認知症こそありませんでしたが、足腰が弱く家の中での転倒が増えてきた頃でした。

 

前日まで自宅でいつもと変わらぬ二人生活を送ってきたご夫妻でしたが、Tさんが家の中で転倒してしまいます。いつもは自力で起き上がることが出来ますが、その日は出来ませんでした。Sさんが手を貸しましたが、それでも起きることができず、救急車を呼んで整形外科へと運ばれました。レントゲンでは、骨に異常はないが筋力が衰えてきていることから一人での歩行は難しく、歩行器の使用を勧められました。その状態のまま帰ることもできず、Sさんを一人で帰すこともできないので二人揃って入院させてくれました。しかし、いつもと違う環境にSさんは眠れず、トイレを探して病院内を彷徨い他の方の病室に何度も入ってしまったそうです。そのため、病院ではこれ以上入院させることはできないと言われてしまったのです。

 

2.ショートステイに入所して

そのような経緯で行き場所がなくなってしまい、担当ケアマネージャーよりショートステイに緊急入所させてほしいという連絡が入りました。今後は施設入所の方向で探すということでしたが、いつまた転倒してしまうかわからない歩行状態のTさんと、認知症があり一人にはできないSさん二人きりの在宅生活は危険なため、入所先が決まるまでの緊急措置ということです。

 

施設内の介護職、看護職へ情報を提供し、たまたま居室も空いていたためその夜からご夫妻を受け入れました。

 

Sさんはとても穏やかでいつもニコニコ微笑んでいる柔らかい印象の方でしたが、初めて来る施設の環境に少し戸惑っている様子で最初の数日間は落ち着かず、眠れぬ夜が続きました。Tさんは状況や経緯も理解しているので戸惑いはないようでしたが、人に頼ることが性に合わないようで、かなり不安定な歩行状態であるにもかかわらず介護士の手を借りようとはしませんでした。こちらが気付いて手を貸そうとしたときに拒否するほどではありませんでしたが、夜中にトイレへ起きようとしたときにナースコールで呼んでくれることは一度もありませんでした。

 

二人のショートステイは2か月に及びました。本来ショートステイとは、短期入所生活介護という名称の通り30日以上の連続利用は出来ないことになっています。しかし、A夫妻のような状況の場合にはやむを得ずその期間を超えて利用しなければなりません。SさんはTさんがいないと不安になってしまう傾向にあり、Tさんも認知症のあるSさんを心配する気持ちから離れて暮らすことは望んでいませんでした。そのため、二人揃って入所できるところを探さなければなりません。担当ケアマネージャーもあちこちを当たっていたようですが、なかなか行き先が見つかりませんでした。収入が特別多いわけでもなかったので、選択できる施設の幅も限られていました。

 

そんな最中、Tさんが居室で転倒してしまいました。大きな怪我はしませんでしたが、尻餅をつく格好で転んだためにその日から腰の痛みに悩むようになりました。Tさんはあまり動かなくなり、トイレへ行く際も自ら介護士の手を借りるようになりました。夫婦だけでの在宅生活はますます厳しいと言わざるを得ない状態でした。

 

3.Tさんの気持ち

担当ケアマネージャーは在宅生活を諦め、入所先を探すことが現実的と考えていました。ご家族も同様の考えでした。無理せず、誰かの目が届くところで安全に穏やかに暮らしてほしいと思っているようでした。SさんはTさんがいるのであれば施設であっても構わないようで、Tさんも当初は入所先があるのならばその方が安心というご意見でした。しかし、Tさんはショートステイの利用が長引くにつれ、やはり自宅で暮らしたいという思いが強くなっていったようです。

 

娘さんが面会に来る度に「お父さん、もう一人で歩いてトイレに行くことも難しいでしょ?おうちじゃ転んでも誰も助けてくれないでしょ?だからおうちは難しいよね。」と説得していました。そう言われると、Tさんは「そうだよね。」と同意していましたが、娘さんが帰ったあとは「家でもどうにかなるんじゃないかな?」と職員に話していました。

 

きっと、頭ではわかっているのだろうと思いました。娘さんの言っていることも、今の自分の状態では自宅で生活することが難しいことも、全てわかってはいるけれど気持ちの面で踏ん切りがつかないのでしょう。Tさんはなかなか入所の話に前向きになれませんでした。この頃、タイミング悪く夫婦部屋の空いているという施設が見つかりました。金銭的にもご夫妻の年金で払っていける範囲内でした。しかし、娘さんからTさんにこの話をしたところ、Tさんは難色を示しました。娘さんはやっと見つかったのだから絶対に入所した方が良いと説得をしましたが、とうとうTさんは首を縦に振りませんでした。そして、自らその施設へ電話をしてお断りしてしまったのです。

 

これには娘さんが怒ってしまいました。「お父さん一人の問題じゃないんだからね!」そう言って居室を出て行ったところを偶然目にしました。

 

このままでは家族関係も悪くなってしまう、そう感じました。しかし、Tさんの気持ちも理解できます。誰だって自分の家で暮らすのが一番良いに決まっています。今のショートステイでの生活も、Tさんにとっては快適とは言えないのでしょう。私は、ご夫妻にとって良い道はどこにあるのかしばらく考えていました。

 

4.外出という提案

娘さんが怒って出て行ってしまった日から数日後、私は担当ケアマネージャーへある提案をしました。TさんとSさんに外出という形で家に帰っていただくのはどうか?というものです。それを何度か繰り返し、可能であれば一泊でも家で過ごしていただくのが良いと思ったのです。しかし、ケアマネージャーは微妙な反応でした。今の身体状態で家に一泊なんてできるのだろうか?という思いが強かったようです。家にいる間に転倒したり二人では対処できないことが起こった場合に、誰が駆けつけることができるのかという懸念もありました。

 

しかし、Tさんの希望があくまで在宅生活である以上は、出来る限りその思いに沿った道を探るのが支援者のすべきことであると思います。何より、今は自宅へ帰りたいという思いが強すぎて入所のことを考えることが出来ていません。そのTさんの気持ちに寄り添うことが何より優先されるべきと思ったため、このような提案をしたのです。娘さんにも付き添っていただければ、短時間自宅に滞在すること自体は問題ないだろうと思われました。

 

最初は難色を示したケアマネージャーも、私の話を聞いて最終的に納得してくれました。「確かに、今の状態で入所先をと言っても難しいですものね。Tさんの気持ちに添って支援計画を立てるなら、そういうことが必要なのかもしれません。」

 

そして娘さんにも同意いただき、一週間後に外出が実現しました。最初は3時間程度の滞在でしたが、ご夫妻は久しぶりの帰宅にとても嬉しそうでした。娘さんも少し心配そうな顔をしながら一緒に出掛けていきました。

 

帰ってきてからお話を聞くと、「とりあえず、ただただ嬉しそうでした。」と娘さんが教えてくれました。Tさんも、「やっぱり自分の家は落ち着くね。」とニコニコしていました。自宅にいる間はトイレへ行かず、ソファに座ってあまり動かなかったようです。そのためご本人も不安や危険を感じることはなかったようでした。Sさんも自宅へ帰ったことで「くつろいじゃったわぁ」とご機嫌でした。

 

5.本人の気持ちに寄り添う

それから同様の外出を何度か行い、少しずつ時間を延ばしていきました。半日ほど滞在したときは、自宅でトイレにも行ったそうです。娘さんが手を貸したようですが、慣れていない娘さんではとても大変だったと話してくれました。Tさん自身も介護士の手がないと以前のようには出来ないということを痛感したようでした。

 

そしてその後、娘さんから「難しいと思うけど、おうちで一泊してみる?私も一緒に泊まるから」という話を持ち掛けたところ、Tさんはとても迷っていましたが数日間考えた挙句、ある日娘さんにこう言いました。「やっぱり、うちでSと二人で暮らすのはもう無理だと思うんだ。一泊することさえ、お前の言うように難しいと思う。前みたいに自分のことを自分で出来るわけではないし、自宅に戻ってもお前がいつも側にいてくれるわけでもない。トイレを手伝ってくれなんてSに頼むこともできないし、ショートステイで介護士さんにお願いする方が気持ちが楽だ。」

 

Tさんの気持ちが入所の方向へ向いた瞬間でした。以前のようにはできない自分を自覚することは、辛く情けないことでしょう。このようなやり方が良かったのかどうかはわかりません。しかし、自分の意思がしっかりしているTさん自身が、今後の生活をどうしていくのかをきちんと考えることが出来なければ前に進むことは出来ませんでした。人は、老いを受け入れて生きていかなければなりません。老いていく自分を受け入れて生きている人は輝いています。気持ちが前向きで、周りの人にも幸せを与えています。老いることは悲観すべきことではないのだと、私はこれまで出会った何人もの利用者さんに教えていただきました。だからこそ、Tさんにもきちんと自分の状態と向き合い、今後の夫婦の生活をどうしていくかを自分で考えてほしかったのです。

 

Tさんは、入所先を探してほしいとケアマネージャーに言いました。以前断ってしまった施設にもう一度当たってみましたが、既に別の人が入所してしまったということでした。

 

6.夫婦の生活を今後どうしていくか

私は同じ敷地内にあるグループホームとケアハウスを当たってみることにしました。私の勤務先は複合施設であり、同じ敷地内に特養・ショートステイ・グループホーム・ケアハウス・デイサービスを併設していました。そして、グループホームとケアハウスに1部屋ずつ空きそうな居室があるという返答がありました。A夫妻の話をしたところ、入所の方向で進められそうな手応えがありました。

 

同じ施設に入所することがご夫妻の希望でしたが、Sさんの認知症はショートステイに入所してからますます進行しているようでした。急激に環境が変化したことが原因と思われました。そのため、家庭的な雰囲気の中でより専門的なケアを受けられるグループホームが良いのではという思いがありました。一方でTさんは、身体介護が少し必要ですが頭がしっかりしているので比較的元気な方が多いケアハウスなら馴染めるだろうと思いました。

 

「二人は生活の中に互いの存在を感じることが出来ればきっと大丈夫だろう。ショートステイでも四六時中一緒にいるわけではないし、うちのケアハウスとグループホームなら渡り廊下で繋がっているから会いたいときにすぐ会える。」そう考えました。

 

お互いの部屋を行き来しても良いし、希望があれば食事を共にすることもできます。私はケアマネージャーにそのような方向で考えてみるのはどうかと話しました。夫婦部屋に限って施設探しをしていたケアマネージャーは私の出した選択肢に少し驚いたようでしたが、「そのような環境であれば無理して同じ施設でなくてもその方が良いかもしれませんね。」と前向きな返事をくれました。

 

そして、ショートステイ利用中にケアハウスとグループホームのどちらも見学に行きました。TさんとSさんは、それぞれ違う施設に入るの?と最初は戸惑っていましたが、実際に見に行ってみるとそのような不安はなくなったようでした。「こんなに近いんだったらいつでも顔が見られるね。同じ施設みたいなものじゃない。」Tさんはこれで入所できるならなんの問題もないと嬉しそうでした。

 

7.今まで通り仲良く

それから、双方の施設が空くのを待ってTさんとSさんがそれぞれケアハウスとグループホームに入所しました。私はその後も度々様子を見に行ったり職員から話を聞いたりしていましたが、ご夫妻は毎日のように互いの部屋を行き来し、今まで通り仲良く暮らしているようでした。実際に入所した後も、自宅へ帰りたいという思いが再燃することはないようでした。

 

そして、たまにショートステイに二人で遊びに来てくれることもありました。そんなときには、足が悪いTさんが乗った車椅子をSさんが押してきました。「お元気そうですね、こちらまで来てくれたんですか。」と言うと、「ふと懐かしくなって。2か月ちょっとしかここにはいなかったんだけど、なんだか思い入れがあるんだよね。」Tさんは笑いながらそう言ってくれました。

 

自宅で暮らしていた人が突然施設に入所するというのは、ご本人にとって受け入れるのが難しいことです。A夫妻の場合はそれを余儀なくされてしまったわけですが、厳しい状況の中でショートステイが良いクッションになったのかなと思っています。ショートステイを利用しながら施設での生活を疑似体験して、少しずつ入所への覚悟を作ることができたのではないかと考えています。

 

ショートステイには主要な目的の一つであるレスパイトケアとは別に、自宅と施設の橋渡しをする役割もあるのだと改めて勉強させていただいたケースでした。また、ご本人に寄り添った支援をすることの大切さと難しさを学びました。最初に空きが出た施設に入所を急いでいたら、きっとTさんは自宅への思いを捨てきれず、納得もできないまま施設での生活を送ることになったことでしょう。そうなっていたら、今の二人のような晴れやかな笑顔はなかったと思います。

 

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