この記事では、地域包括ケアシステムの概要と、期待される効果と課題について述べる。考え方の一例として参考にしてください。
地域包括ケアシステムの概要
地域包括ケアシステムの始まりは、1974年に病院を退院後寝たきりになってしまうケースが多いという理由から始まった、広島県御調町における訪問看護、訪問リハビリ等の在宅ケアによる寝たきりゼロ作戦であった。地域包括ケアシステムを保健(予防)、医療・介護・福祉の連携システムとしている。山口(2013)は「従来医療は病気の治療に偏っていたきらいがある。本来、医療とは治療だけではなく、疾病の予防から治療、さらにはその後のリハビリ、ケア(介護)までを含む包括的な医療が望ましい」と述べている。それは、「病院完結型」の医療から「地域完結型」の医療への実践的な転換であった。
医療提供体制の大きな動きとして、2008年の社会保障国民会議において、超高齢社会である2025(平成37)年度におけるあるべき医療・介護サービスの提供体制を確立するとされた。
地域包括ケア研究会(2008)では、団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて病気や介護が必要な状態になっても、個人の自立とQOLの追及が可能となるような医療や介護を通じたサービスが提供できるようなサービス提供体制の改革の必要性が述べられている。
2011年の介護保険法改正では、地域包括ケアシステムの構築を推進するため、介護保険法第5条において、国および地方公共団体の責務として、地域包括ケアシステムの推進を図る趣旨の条文が加わり、地域包括ケアシステムに法的根拠が与えられた。さらに2014年の医療介護総合確保推進法ではより明確化・強化された。このように地域包括ケアシステムは、2025年(平成37年)の超高齢化社会を目途にして発展してきた背景を持つ。
地域包括ケアシステムは「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために医療や介護のみならず、福祉サービスも含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域であり、おおむね30分以内に必要なサービスが提供される圏域として、具体的には中学校区を基本とする)で適切に提供できるような地域での体制」と定義されてきた。
地域包括ケア研究会(2013)では、地域包括ケアシステムは「住まい」「生活支援・福祉サービス」「介護」「医療」「予防」の5つを地域包括ケアシステムの構成要素とし、これらの構成要素は、それぞれの役割に基づいて互いに関係しながら、また連携しながら在宅の生活を支えているとした。
その後、地域包括ケア研究会(2016)はいくつかの修正・追加を行った。①地域包括ケアシステムの展望を2025年から65歳以上人口がピークとなる2040年あるいは2042年へ変更。②「生活支援・福祉サービス」について「介護予防・生活支援」に整理する。③「保健・予防」から「保健・福祉」に改め、福祉の専門職を強調された。④「本人・家族の選択と心構え」のコンセプトが提示されていたが、本人の選択がもっとも尊重されるべきだとして、「本人の選択と本人・家族の心構え」に変更された。
地域包括ケアシステムの期待される効果と課題
期待される効果
①利用者から見た一体的なケア
ニーズに応じた多様なサービスや支援が、仮に複数の事業者や専門職から提供されていても、一つのチームから提供されていると感じられる「利用者からみた一体感」が重要であり、地域包括ケアシステムは、多様な資源が利用者からみて一体的に提供される体制(あるいは、利用者がそのように感じられる状態)を実現する地域の仕組みづくりである。
②地域特性にあった地域包括ケアシステム
高齢化自体は全国共通であるが、その姿は地域によって様々であるため、高齢化によって生じる課題も地域によって異なると想定される。地域包括ケアシステムは画一的な答えやモデルが存在するわけではないため、地域特性にあった地域包括ケアシステムを構築することができる。
③互助の広がり
互助は、社会の正式な制度ではなく、住民の自由な意思の集まりとして、地域の環境の中で築かれる関係性であるが、行政が、自助や互助を直接作ることはできなくとも、体操やサロンなどの社会参加活動が持つ予防効果を住民に伝えたり、住民の気づきの機会を提供するなどして側面的に支援する工夫は可能であり、地域での互助が醸成されることが期待される。
課題
①資源確保
地域包括ケアシステムでは、介護保険制度の財政困難を背景にNPOや地域住民などを中心とした資源の動員を予定している。しかし、それらを確保できる地域は限定されている。また、これらの調整を行う人材についても同様であり、どの地域にも期待できるものではない。
②構築方法
地域包括ケアシステムは、各自治体が地域の実情を踏まえて構築していくべきものであり、自治体によって内容、展開過程など非常に多様性がある。しかし、手順が示されないまま責任だけが自治体に転嫁されているという指摘もある。
参考文献
1.髙橋紘士 編(2013)『地域包括ケアシステム』オーム社.
2.山口昇(2013)「2章 地域包括ケアのスタートと展開」髙橋紘士 編 『地域包括ケアシステム』オーム社,12-37.
3.社会保障制度改革国民会議報告書(2013)
4.地域包括ケア研究会(2016)『地域包括ケアシステム構築に向けた制度及びサービスのあり方に関する調査研究事業報告書』三菱UFJリサーチ&コンサルティング.
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