それから、Yさんはとても静かで穏やかな日々を送りました。その期間はたった6日間でした。点滴を抜き、栄養・水分共にゼロの状態で6日間生きました。喉が渇いたときには、大好きなオレンジジュースを数滴舐めるように飲みました。6日間の中でYさんが口にしたものはそれだけでした。
介護職員は、とにかくまめにYさんの部屋を訪れ、声をかけることを徹底していました。Yさんは誰かが来ると嬉しそうに笑ってくれました。息子さんも奥様も、毎日施設を訪れました。日中はYさんと共に過ごし、夕方には「また明日ね。」と帰っていきました。
特徴的であったのは、笑顔が増えたことでした。入院中の様子も見ていたケアハウス相談員もとても驚いていました。「以前はニコニコしていたYさんが入院して笑顔を失くしてしまったと思っていたけど、昔のYさんに戻ったみたいだ。」と喜んでいました。
最期の日、Yさんは静かに息を引き取りました。職員も家族も見ていないときに、そっとこの世を去りました。息子さんと奥様が揃って帰路についてから2時間後のことでした。優しく人の気持ちを考えるYさんらしい最期だと感じました。きっと、死に目に立ち会わせては悲しませてしまうと思ったのでしょう。そしてその表情は少し微笑むように、とてもとても穏やかでした。
後日、退所の手続きをしに訪れた息子さんの表情はやはり穏やかなものでした。「本当にありがとうございました。お蔭さまで母の望む最期の形を作ってやることができたと思います。あのまま入院中に死んでしまっていたら、今こんな気持ちではいられなかったでしょう。戻ってくることができて本当に良かった。皆さまのお蔭です。」と、とても温かいお言葉をいただきました。
Yさんの笑顔が今も私の心に残っています。その最期のお顔を見ただけで幸せな人生だったのだとわかるような、そんな素敵な表情でした。
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