それから、双方の施設が空くのを待ってTさんとSさんがそれぞれケアハウスとグループホームに入所しました。私はその後も度々様子を見に行ったり職員から話を聞いたりしていましたが、ご夫妻は毎日のように互いの部屋を行き来し、今まで通り仲良く暮らしているようでした。実際に入所した後も、自宅へ帰りたいという思いが再燃することはないようでした。
そして、たまにショートステイに二人で遊びに来てくれることもありました。そんなときには、足が悪いTさんが乗った車椅子をSさんが押してきました。「お元気そうですね、こちらまで来てくれたんですか。」と言うと、「ふと懐かしくなって。2か月ちょっとしかここにはいなかったんだけど、なんだか思い入れがあるんだよね。」Tさんは笑いながらそう言ってくれました。
自宅で暮らしていた人が突然施設に入所するというのは、ご本人にとって受け入れるのが難しいことです。A夫妻の場合はそれを余儀なくされてしまったわけですが、厳しい状況の中でショートステイが良いクッションになったのかなと思っています。ショートステイを利用しながら施設での生活を疑似体験して、少しずつ入所への覚悟を作ることができたのではないかと考えています。
ショートステイには主要な目的の一つであるレスパイトケアとは別に、自宅と施設の橋渡しをする役割もあるのだと改めて勉強させていただいたケースでした。また、ご本人に寄り添った支援をすることの大切さと難しさを学びました。最初に空きが出た施設に入所を急いでいたら、きっとTさんは自宅への思いを捨てきれず、納得もできないまま施設での生活を送ることになったことでしょう。そうなっていたら、今の二人のような晴れやかな笑顔はなかったと思います。