「初めまして、私鈴木と申します。本日は貴重なお時間をいただいて申し訳ありません。」そうご挨拶をすると、Uさんはゆっくりこちらを向いてにこりと笑いました。部屋の臭いとはアンバランスに、身なりもきちんとしており上品な女性という印象でした。
「あなたも若いのに大変ですね。このへんのお宅を順番に周っているわけでしょう?お年寄り多いですからねぇ。私はまだお年寄りなんて呼ばれる年齢じゃないからお話できることなんてないと思うけど…どんなことを聞きにいらしたんですか?」とUさんは返してくれました。
「えぇ、大したことではないんですが、Uさんが普段どのように生活されているのかを少しだけお聞きできたらと思っているんです。もちろん失礼のない範囲で。」そう断ると、Uさんは快く引き受け「協力してあげよう」というスタンスでいろいろなことを教えてくれました。プライドが高いと聞いていましたが、こちらが付き合い方を考えればさほど難しくない人だと感じました。何かをお願いされたり頼りにされると断れない人のようです。こうして無事に生活状況などを聞くことができました。
ガタン。
突然音がして、びっくりして振り返ると二階から男性が降りてきたのが見えました。こちらには目もくれず、挨拶もせずに隣の部屋へと消えていきました。「今のって…」「あれが次男さん」と、Kさんが教えてくれました。
長男の奥様もとても良い方で、把握している範囲でUさんについていろいろなことを教えてくれました。
「以前ショートステイをお願いしたときには夜を明かせずに帰ってきてしまって…。お義母さんは身体が元気でしょう。だから、本人が帰りたいと思ったらもう周りの言葉が耳に入らずに出て行ってしまうようなんですよね。タクシーとかにも乗れてしまうから本当に帰ってきてしまうんです。それって施設さんにはとてもご迷惑でしょ。でも、家族としてはやっぱり少しずつ介護サービスとかを利用してNちゃんの負担を減らしてあげたいと思ってるんですよ。私達夫婦も頻繁に手伝いに来ることができない距離にいるので。」