Fさんが初めて活動する日、私もサロンを訪れました。Fさんは受講者の中で最高齢であり、いくらお元気であると言っても実際にどの程度活動できるかは判断が難しいところです。そして今はお元気であっても状態が変化する可能性も多分にあるため、注意してフォローアップしていく必要があると認識していました。
そのサロンは皆で何かをするというよりも、ふらっと来て好きなことをして帰りたくなったら帰る、という気楽な雰囲気の場所でした。数人の女性が集まって手芸をしており、ある男性はお一人でいらしていて何をしようかな…と考えているようでした。そして、その男性がFさんを見るなり、「あなた、将棋はやりますか?」とお声をかけてきたのです。
「えぇ、昔よくやりました。久しぶりですが、腕は落ちていないと思います。」Fさんは少し照れくさそうにそう答え、その男性も「それは、それは。是非やりましょう。」と嬉しそうに応じました。
その男性は時折このサロンに来ては、読書をしたり女性に交じって小物を作ったりもしているということでした。割とどんなことでもやってみようという人で、参加者の中に男性が自分一人でもあまり気にしていない様子だと地域包括支援センターの職員から話を聞きました。
Fさんはその方と将棋をして、サロンが終わる時間になると机を片付けたり掃除をしたり、スタッフとしていろいろな仕事をしてくださいました。
そして、Fさんと将棋をしていた男性が帰り際、このようなことを仰いました。「いやぁ、今日は久しぶりに楽しかった。将棋は相手がいないとできないから参加者の中に男性がいるときには声をかけてみるんだけどね、ここは比較的女性が多くて男性がいないときもよくあるから…。でも、Fさんはなかなかの腕前ですね。是非またお相手していただきたい!」
そう言って、男性は満足そうな笑顔を携え帰っていきました。Fさんは、気恥ずかしいような嬉しいような、そんな顔をしていました。
活動を終え、私はFさんに声をかけました。「Fさん、お疲れさまでした。本日はありがとうございました。初めての活動でしたが、いかがでしたか?」
「なんだか大したことはしていないというか、将棋をしていただけなんだけど…こちらも楽しい思いをさせていただいてしまって。こんなことで良いなら今後もお手伝いできるけどね。もっと困っている人のところへ行きたいような気もするけどね。」Fさんからは、このような返答がありました。