後日、Yさんの息子さんが施設へ来ました。ケアハウスのI相談員と共に私も同席させていただきました。
「結論から申し上げますと、決心がつきました。もう延命的な点滴は望みません。点滴を抜去し、特養への入所をさせていただきたいのです。」息子さんは落ち着いた様子でそう言い、特養への入所申請書を差し出しました。
「わかりました。申請書はお預かりします。今のYさんの状態で点滴を抜くことは死期を早めてしまうかもしれませんが、ご家族様としては施設で最期を迎えたいということですね。」
「家族の思いとしては、正直言って複雑でした。点滴を抜けば死を早めてしまう。でも、母は病院でも点滴を嫌がっているのです。針を刺し替える度に、『痛いから、これもうやらなくていいよ。』と言うのです。そんな様子をこの数か月間そばで見ていました。だから、点滴をこれ以上望む気にはなれません。施設のやり方であれば抜き刺しは毎日のことになってしまうのでしょう?とてもじゃないけど、それは母にとって苦痛だと思うのです。だからと言って、死を早める決断をすることはできなかった。このまま病院が一番いいのではないかとも思いました。」
「では、何故?それでもご決断されたというのは…」と、私が訪ねると、穏やかな顔で息子さんはこう言いました。
「母が自分で選んだのです。『早く帰りたい。ここではない、温かいところで過ごしたい。』そう言いました。母は、ケアハウスでの生活が好きでした。その言葉を聞いて、わかったんです。人生は長さではない。少しでも長く生きたとしても、母が幸せでなければ意味がない。母が幸せであるならその時間が結果的に短くなったとしてもその方が良いのだと、そう思えたんです。最期の時間を温かい場所で過ごせるように段取りをするのが家族の役目だと思いました。だから、こちらに帰してあげたいと思っているのです。」
正直言って、驚きました。同時に、施設で働く職員としてはとても嬉しいお言葉でもありました。まず、Yさんがそのように自分の意思をはっきり伝えることができる状態であることにびっくりしましたし、施設での生活をそんなふうに思ってくれていた事実がとてもありがたいことでした。
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