社会福祉士コラム

祖母の介護から始まった道 美咲さんが社会福祉士を目指す理由

はじめに

埼玉県で働く30歳の会社員・美咲さん。日中は営業職として忙しく働きながら、夜は社会福祉士国家試験の勉強に励んでいる。彼女がこの資格を目指すようになったきっかけは、五年前に起こった家族の出来事だった。平穏だった日常を揺さぶった祖母の介護は、人生の進路を大きく変える転機となった。

祖母の介護がもたらした初めての葛藤

美咲さんの祖母は、長年近所の子どもたちの面倒を見てくれる穏やかな人だった。だがある日、同じ話を何度も繰り返し、夜中に家を出てしまうことが増えた。医師から「認知症」と告げられた時、家族は不安と戸惑いでいっぱいだった。
「祖母が何度も同じ質問をするとき、どう答えればいいか分からなくて。ただ笑ってごまかすことしかできませんでした。」
母は仕事を調整しながら介護を担ったが、夜遅くまで続く世話に疲弊し、家庭の空気は次第に重くなっていった。美咲さん自身も会社と自宅を往復する中で、苛立ちと無力感に押しつぶされそうになったという。
「家族みんなが疲れていて、些細なことで言い合いになる。祖母を大切に思う気持ちがあるのに、それをうまく表現できず、自己嫌悪ばかりでした。」

地域包括支援センターとの出会い

状況が限界に近づいた頃、母が地域包括支援センターに相談した。そこには、家族の混乱を受け止めながら、介護サービスや制度を丁寧に説明してくれる社会福祉士がいた。
「祖母の状態や私たち家族の負担を一つひとつ聞き取ってくださり、利用できるサービスや手続きをわかりやすく示してくれました。」
その社会福祉士は単に制度を案内するだけでなく、家族それぞれの心情に寄り添い、「無理をしなくていい」と静かに声をかけてくれた。
「その言葉を聞いたとき、胸のつかえが一気に取れた気がしました。自分たちだけで背負わなくてもいい、そう思えた瞬間でした。」

「次は自分が支える側に」

祖母を見送った後、美咲さんの心には一つの願いが芽生えた。
「今度は私が、あの時の社会福祉士さんのように、誰かを支えられる人になりたい。」
それは感謝だけではなく、家族が苦しかったあの日々を自分なりに意味あるものにしたいという思いでもあった。働きながら学べる通信課程を選び、仕事と学習を両立する日々が始まった。

両立の日々と学びの喜び

平日は営業の仕事を終えた後、夜9時から11時までが勉強の時間。休日は午前中を学習にあてる。最初は試験科目の多さに圧倒されたが、テキストを読み進めるうちに、実家での介護体験と福祉制度が一本の線でつながっていく感覚を覚えた。
「祖母のことで悩んだあの日に、この制度を知っていればどれだけ助けになっただろう――そう思うたびに、学ぶ意義を強く感じます。」
疲れた夜もあった。営業成績のプレッシャーに追われながらレポートを書き、模擬試験で思うように点が取れないこともあった。それでも「同じように困っている家族がいるはず」という思いが、諦めずに机に向かわせた。

周囲からの支えと新たな視野

学びを続ける中で、美咲さんは同じ志を持つ仲間と出会った。通信課程の勉強会やオンライン交流では、介護や児童福祉など多様な現場で働く人々と意見を交わす。
「自分の体験だけでは見えなかった福祉の世界が、一気に広がった気がします。地域づくりや政策に関心を持つようになったのも、その刺激があったからです。」
祖母の介護という個人的な体験から始まった学びは、やがて地域全体を支える視点へと広がっていった。

未来への決意

美咲さんが目指すのは支援の現場。地域包括支援センターで、あの日の自分と同じように戸惑う家族の声に耳を傾けたいと考えている。
「困っている人の声を聴き、制度や地域の力をつなげて支える。あの時感じた“安心感”を、今度は私が届けたいです。」
通信課程で積み重ねた努力と、祖母と過ごした時間。その全てが、これから出会う誰かの支えとなる礎になっていく。

まとめ

一人の家族として感じた無力感。その中で出会った支援者の姿が、美咲さんを社会福祉士という新たな道へ導いた。祖母と家族の物語は、支えたいという願いを胸に歩む彼女の人生を力強く後押ししている。美咲さんの決意は、同じ道を目指す人たちに「原点を大切にすることこそが、人を支える力になる」という確かなメッセージを投げかけている。

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