「スティグマ」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。 「恥辱の烙印」などと訳されます。古代ギリシャにおいて、奴隷の印として付けられた烙印を語源としている言葉です。
スティグマとは
「スティグマ」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。 「恥辱の烙印」などと訳されます。古代ギリシャにおいて、奴隷の印として付けられた烙印を語源としている言葉です。
日本でスティグマという言葉が広がったきっかけは、アメリカの社会学者ゴッフマンが有名です。ゴッフマンは、著書『スティグマの社会学―烙印を押されたアイデンティティ―』 において、スティグマのことを、「それをもっていると否定的な意味で普通でない―劣勢、汚れ、不完全、等々―と見なされてしまう、ないし見なされてしまいうる徴(しるし)」と述べています。具体的には、身体的な障害がある人や、人種・民族・宗教などの違いを理由に集団的な価値剥奪を受ける人などが、スティグマを持ちやすいと言われています。 これらの人々は、社会から「好ましくない違い」を持つ者として区別され、 差別や偏見にさらされてきました。
スティグマは個人のアイデンティティにも影響を及ぼす
スティグマの特徴的な点は、他者からスティグマを持つ者がどのような役割期待をされているかという点だけでなく、スティグマを持つ者自身のアイデンティティにどのように影響しているか、にも言及した概念であることです。ゴッフマンは、スティグマは属性ではなく関係性によって生まれる言葉だと述べています。
スティグマを持つ者と持たない者の区別には、例えば精神疾患があって入院している人とそうではない人、身体的に障害がある人とない人といったものがあります。 しかしそれは「そうではない側の人間」が「そうである側の人間」のたった一面を見て、区別しているに過ぎません。 にもかかわらず、自分とは異なる人間ないしは劣った人間と見なし(そのような役割を期待し)、「自分とあの人は違う」「自分はああなりたくない」と言って排除しようとします。こういった周囲からの差別や偏見といった反応は、パブリックスティグマと呼ばれます。そしてそのような前提があると、スティグマを持つ者自身もまた、「自分は差別される存在なのだ」と感じるようになり、劣等感が形成されていき、そのアイデンティティにも影響を及ぼすようになります。これをセルフスティグマと呼びます。
現代にも根強く残るスティグマ
現代にも、もちろんスティグマは存在します。生活困窮者のための最後のセーフティネットと呼ばれる生活保護ですが、「福祉の世話にはなりたくない」と申請を控える方もいます。 これには、「生活保護を受けている人間は、まともに自立していない惨めなやつだ」とか、「働かない怠け者だ」といったパブリックスティグマがあるでしょう。それによって、「生活保護を受けている惨めな人間になったら、家族や友人が離れていくかもしれない」というセルフスティグマに繋がるのです。
生活保護を受給するためには、ミーンズテスト(資産調査)というものが行われます。実際の貯金や債券、資産活用能力が調査され、生活内容に深く立ち入るため、スティグマがつきまといます。市役所に相談に行っても、職員にひどい言葉を浴びせられたというニュースを耳にすることもあります。最近では、著名人が動画配信サイトで「ホームレスよりも猫を救って欲しい」といった旨の発言をし、炎上したこともありました。
コロナ禍の影響で、以前より社会問題となっているホームレスやネットカフェ難民だけでなく、自営業者、飲食業界、観光業界などが打撃を受け、多くの市民が生活困窮に陥っています。それに伴い、生活保護の相談も増加しています。しかしスティグマによって申請をためらい、なかなか制度に繋がらない方もいます。
スティグマは、現代にもまだまだ存在しています。そのスティグマの有無による区別に、多くの人々が苦しんでいます。自分の中にある無意識のスティグマに、意識的でありたいものです。