その他

【第2回】特養から自宅復帰を果たしたKさんとそのご主人 ~日に日に不穏に~

「ねぇ、私が帰る日はいつなの?予定があるでしょ、見せてよ。」Kさんはこう言って毎日のように職員に詰め寄るようになりました。あまり良いこととは言えませんが、認知症の方であればこのような質問はいくらでもごまかすことができてしまいます。翌日になればこちらの答えたことは忘れてしまう人も多いからです。しかしKさんは違います。記憶も持続するため、適当に答えるわけにはいきませんでした。

 

相談員を通じてご主人へKさんが特養をショートステイと思っているようだという話をしたところ、驚くべき答えが返ってきました。

 

「あいつには、特養へ入所するということは伝えてないんです。だから、いつものショートステイだと思っています。入ってしまえばどうにでもなるでしょう。先に入所するなんて伝えたらあいつは絶対に施設へは行かない。それがわかっていたから、言わなかったんです。ベッドに括りつけてもいいので、そこにいさせてください。もう家で見るのは限界なんです。」

 

衝撃的な答えでした。繰り返しになりますが、認知症のある方であればその手を使っても時間が経つにつれどうにか穏やかに過ごせるようになるかもしれません。ご主人の言うように、「入ってしまえばどうにでもなる」可能性もあります。しかし、Kさんは理解力がきちんと残っている人なのです。誰だって、事情も説明されずに施設への入所を勝手に決められてしまえば不穏になるのは当然でしょう。

 

Kさんは、これまでご主人と二人きりで長年暮らしてきたと言います。子供はおらず、頼れる身寄りはご主人だけです。しかし夫婦生活はあまりうまくいっていなかったのだと双方が同じように言っていました。ご主人は昔から浮気を繰り返し、外に別の女性がいることが当たり前だったようです。しかし、ご主人が言うにはそれはあくまで昔の話で、定年後はそのような事実は一度もないということでした。Kさんはご主人のそのような言葉を信じることができず、今も変わらず外に女性がいると思いこんでいるようでした。

-その他
-