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【第6回】 愛されキャラのお婆ちゃんと、面会に来ない家族 ~終末期ケア~

遠慮がちにではありましたが、ご家族としての意向をTさんから聞くことができました。このまま食事がとれなくなっても点滴やその他の医療・延命処置は希望せず、痛みや苦痛なく穏やかに過ごすことを優先させるということでMさんの終末期ケアの方針が定まりました。

 

特養のご利用者の家族には、延命を希望しないという意向を持つ方がとても多いです。自宅で最期を迎えることはできなくても、少しでも家のような雰囲気の中で穏やかに最期を迎えてほしいという方が特養への入所を希望する傾向にあるのかもしれません。しかし、私はTさんからこのような意向が出たことには少し驚きました。経験則にはなりますが、親の老いや死に向き合うことができていないご家族ほど延命治療を望まれます。きちんと向き合い、受け入れることができている方は、死が訪れる瞬間が早いか遅いかではなくそれまでの時間をどのように過ごすかが重要であると考えています。しかし、受け入れることができていないとどうしても命を長さで計ってしまい、延命をしないという決断がなかなかできないのです。そのため、私はTさんもそのような答えを出すような気がしていました。

 

しかし、私の予想に反してTさんのご意向は「痛みがなく穏やかに過ごしてほしい」というものでした。そのためには延命処置は希望しないと。Tさんは母親の老いを受け入れることができないと言っていましたが、きっとMさんにとって何が一番良いのか必死で考えたのでしょう。それは、初めてMさんの老いや死と向き合おうとしたということです。その結果、このような結論を出すことができたということは素晴らしいことだと思いました。

 

そしてその後、MさんはTさんの想い通りに静かで穏やかな時間を過ごしました。食事摂取量は徐々に落ちていきましたが、急変することもなく緩やかに時が流れていきました。二回目のカンファレンスを終えてからわずか半月後、Mさんはもうほとんど食事を口にすることができなくなっていました。甘いものが大好きなMさんのためにTさんはジュースやプリンなどを持って時折面会に来てくれました。相変わらず面会に来てもすぐに帰ってしまうことが多かったのですが、MさんはTさんの持ってきたものは少し口にすることができました。

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