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【第1回】愛されキャラのお婆ちゃんと、面会に来ない家族 ~皆から好かれるMさん~

私が特養にて相談員として働いていた頃、Mさんというご利用者さんがいました。要介護5で、生活の全てに介助を要する94歳の女性でした。重度の認知症のため言葉によるコミュニケーションはほとんどとれず、足も全く力が入らないため移動は常に車椅子という生活でした。

 

本来、職員からご利用者さんに対して好き嫌いなどがあってはいけません。しかし実際のところは、やはり人間同士なので職員とご利用者さんの間にも相性や好みがあります。Mさんは、職員だけでなく周りの誰からも好かれる存在でした。「愛されキャラ」だよね、という声もちらほら耳にしました。

 

Mさんは、いつも眠ったように目を閉じています。食事のときも、起きているときも基本的に目を閉じたままです。ごくまれに目を開けているときがありますが、その瞳は虚ろでほとんど見えていないように思えます。ほっぺたが少しふっくらとして垂れており、いつもなんとなく微笑んでいるようなその表情に、周りの人は心が和むようでした。声をかけると、「んー!」といつも元気に答えてくれました。こちらの投げかけたものが挨拶でも、質問でも、大抵返ってくるのは「んー!」というよくわからない返事だけ。しかし、それでも愛されキャラのMさんは、いつも皆からいろいろと声をかけられる存在でした。

 

私は相談員になる前に同じ施設で介護職員として働いていましたが、その頃Mさんのユニットを担当していたこともあり、他利用者さんの中でもMさんは思い入れの深い方でした。そして、私は約3年間毎日のようにそのユニットで勤務していましたが、Mさんの家族の方にお会いしたことがあるのはたった1度だけでした。いろいろな家族がいますが、Mさんのところは本当に面会が少ない家族でした。

 

私がただ1度Mさんの娘さんにお会いしたのは、入職して2年目のことでした。その日は年に1度行われる施設の夏祭りで、露店が出たり催し物が行われたりして施設が活気に溢れる日です。毎年ご家族の方にも事前にお手紙を出し、是非参加してくださいと呼びかけていました。そこに、真っ黒のワンピースに身を包み黒い帽子に黒いサングラスをかけた女性が現れました。こちらが一瞬ぎょっとしてしまうような全身黒ずくめの恰好で、その方はMさんの部屋までやってきました。そして、部屋の中でMさんの身なりを整えていた私にこう言いました。「どうも、お世話になっております。Mの長女のTと申します。」

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