2020/08/07

イベントの当日、約束の時間より少し遅れてYさん親子が現れました。すでに他の方から順番にプロによるメイクが始まっていました。
「すみません、遅れちゃって…。Kが今日に限って出掛けにぐずっちゃって。来るのやめようかと思ったくらいです。いつもサロンに来るのは楽しみにしてるのにどうしたのか…。」そう言うYさんの隣にはいつもより元気のないKくんがいました。
「そうだったんですか、大変でしたね。Kくんどうしたの?今日はあんまり遊びたくない気分?」
「別に…」Kくんが俯いたまま答えました。
「あっ、Kくん来たのね、こんにちは。」いつも遊んでくれているボランティアさんが声をかけました。すると、いきなりスイッチが入ったように「この間の続きやるぞぉー!!ぶーーん!!」と、飛行機のマネをしながらサロンの中を駆け始めました。
「あら、やっぱり来て良かった…。今日はどうしたのかしら。いつもごめんなさいね。ボランティアさん優しいからって甘えちゃって。家ではこうやって力一杯遊ぶことができないし私も相手してあげられないから…。」Yさんはいつものように穏やかな調子でそう言いました。「いいんですよ、どこのお母さんだってそうです。HくんがいるしいつもKくん優先にはしてあげられないですもんね。KくんのためにもYさんの息抜きのためにも、これからも来てくださいね。」
そして、Yさんの順番が来ました。いつもHくんをおんぶしていますが、このときは私が抱っこしているので、と預かりました。「プロの方にメイクしてもらうのなんて、結婚式以来かも。」と、Yさんはとても嬉しそうでした。そのときはお母さんではなく、一人の女性の顔をしていました。
20分ほど経って、Yさんが戻ってきました。春色の柔らかいメイクを施した素敵な女性になっていました。「なんだか自分じゃないみたい。たかがメイクなのに、こんなに嬉しいものなんですね。プロの方にやってもらうなんてドキドキしちゃった。本当にありがとうございます。」心なしか、Yさんはいつもより饒舌でニコニコしているように見えました。