Majiriki

福祉、介護職、介護を頑張る人のトータルサポートサイト 社会福祉士 介護福祉士 精神保健福祉士 保育士

介護事例連載【第5回】Iさんの夢 ~本格的に自宅で~

time 2019/08/02

介護事例連載【第5回】Iさんの夢 ~本格的に自宅で~

結局、清拭と環境整備(身の回りの掃除やベッドメイキング等)のための訪問が私たちの役割になりました。

 

どこの事業所にも決定事項に難癖を付けなければ気が済まないスタッフがいるもので、必要性の疑わしい理由のために訪問するのはいかがなものかと、浅はかな知識でもっともらしいことを話していました。しかし、日に日に緩やかに衰弱していくIさんの姿を見て、会える日を大切にしたいと気持ちが切り替わっていきます。

 

娘さんをはじめとする関係者で定期的にカンファレンスを開催し、その都度Iさんの状態等を報告し合い、互いの連携体制を確認します。

「遅かれ早かれそうなるんだから、気楽にやればいいんじゃない?化けて出たら塩をまいてやるから」ごもっともな話であり、そう言ってもらえると余計なプレッシャーを感じなくてよいので救われました。

 

いくら普段の関係が良好だったとしても、有事になると言い分や態度がガラリと変わることがあります。そう言った意味で娘さんは、根拠はないものの信頼感があり、各々が事業所の保身云々よりも悔いなく最期を迎えてほしいという想いを持っていることが読み取れました。

 

「横で見られてるとやりにくいだろうし、私の腹ごしらえも兼ねて買い物に行くわ。死んだ時の練習と思って綺麗に拭いといたげて」私たちが訪問すると、娘さんは相変わらず笑っていいのか分からない冗談を言いながら原付で出かけ、あっという間に大量の食料や日用品を買って帰ってきます。

 

「お母さん、そろそろだわ。手が空いたらでいいから、誰か来れるかな?」と娘さんから連絡が入りました。幸いフリーのスタッフがいたため、二人で自宅に向かいます。既に主治医と看護師らが来ており、皆でお茶菓子を食べながら寛いでいました。厳かあるいはドタバタした雰囲気を想定していた私たちは拍子抜けしましたが、Iさんらしいなとも感じました。

 

Iさんは呼吸をしているのかどうか分からない状態でしたが、見たこともないほど穏やかな表情をしていました。同行したスタッフがハンカチで涙を拭っているのを見て、娘さんが「まだ死んでないよ!もうじきだけどね!」と笑いながらバシッと肩を叩きました。それで気持ちがほぐれたのか、余計に涙を流していました。

 

私も施設で何人もの看取りを経験しており、土壇場で憔悴したり、しんみりしてしまうなど、様々な人間模様を見てきました。しかし、ここまでリラックスした雰囲気、しかも自宅というシチュエーションは初めてだったのです。

sponsored link

down

コメントする






sponsored link