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【第1回】糖尿病のSさんと、好きなものを食べてほしい家族 ~ロングステイのSさん~

これは、私がショートステイ相談員として働いていた頃の話です。

 

Sさんという利用者さんがいました。糖尿病を患う79歳の男性で、月に1度も家に帰ることはなく、事実上施設入所されている状態のロング利用者でした。Sさんは下肢筋力の低下が著しく、全く立てないわけではありませんでしたが基本的にいつも車椅子上で生活していました。83歳の奥様がよく面会にいらしており、40代の娘さんが2人いました。

 

Sさんは施設内ではまだ若く、お元気な印象の方でした。帰宅願望が出ると車椅子から立ち上がり転倒することも多く目の離せない方でしたが、大きな事故や怪我をすることもなく穏やかに暮らしていました。

 

ショートステイに入所するまでは奥様と二人で暮らしていたSさんでしたが、脳梗塞で倒れたことにより入院生活となり、その間に下肢筋力が低下して車椅子が手放せなくなってしまいました。そのため、バリアフリーでない自宅での生活が難しくなったということでした。リハビリも行ったようですが、ご本人にあまり意欲がなかったことと認知機能の低下もあり、あまり成果が出なかったようです。
しかしご本人の帰宅願望が強く、ショートステイに来た頃は落ち着かなくて大変だったと当時の相談員から聞いていました。車椅子に座っている時間はほとんどなく、常に歩きだしてどこかへ行ってしまうため職員がつきっきりだったようです。現在はここでの生活も5か月目となり、ようやく落ち着いてきたという頃でした。

 

奥様が毎日のように面会にいらっしゃり、日中は部屋で二人で過ごすことがルーティーンとなっていました。夫婦二人仲が良くて素敵だなと思っておりましたし、Sさんも奥様といる間はとても落ち着いて過ごしていらっしゃるので今後も同じような日々が続いていくものと思っておりました。

 

しかし、介護職員からある報告が入ります。「奥様が来ている間、部屋で何か食べているようなんですよね。お菓子みたいな小袋に入ったものを開けてSさんの口に入れてあげているのをたまたま見たんです。それで奥様が帰ってからSさんの部屋のゴミ箱を確認したら、クッキーの空袋がいくつも見つかりました。」

 

Sさんは糖尿病があり、食事制限をしていました。元々甘いものがお好きというのは知っていましたが、奥様がお菓子をあげているのはそのとき初めて知りました。そのときが初めてなのか、これまでもずっとあげていたのかはわかりません。食事制限をしていることや、Sさんの病気のことを考えればお菓子をあげてはいけないことは当然奥様も把握していることでした。

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