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【第5回】 特養の非常勤介護職員Nさん ~「変化」させないこと~

そして、Nさんご本人には施設長から伝えられました。認知症については触れず、年齢的なことも考えると介護業務ではなく今後は清掃をお願いしたいとお話したようです。Nさんはいつもの様子で、「私にできることならなんでもやりますよ。」と快諾してくれたということでした。もしかすると、自身の変化に戸惑いながらご自分でも今後仕事を続けられるか不安だったのかもしれないなと感じました。

 

認知症には「変化」が悪影響を及ぼします。私がNさんを退職させたくなかったのは、それも大きな理由の一つでした。週4日施設で仕事をしていたNさんが退職することになってしまったら、急激にNさんの生活が変わります。そういった「変化」が、さらに本人を混乱させ、認知症を進行させてしまうのです。

そのため、清掃場所は元々Nさんが担当していたユニットを中心に、慣れてきたら徐々に範囲を広げていってもらうことにしました。今までと同じ環境で見慣れた利用者さんと触れ合いながら仕事をしてもらえばNさんの混乱も最小限に抑えられるのでは、と考えたのです。

 

Nさんが了承してくれた翌日から、業務内容を変更しました。介護業務から離れ、最初は少し戸惑っている様子もありましたが、周りの顔ぶれや環境が変わらなかったためか大きな混乱は見られませんでした。清掃用具の場所を忘れてしまったり、掃除した場所を再び掃除していたりということはありましたが、それを指摘したり追及する人はいませんでした。Nさんが困っているようであれば自然と周りが助けてあげていて、それは今までのNさんの人徳によるものだなと思いました。

私は毎日Nさんの様子を見に行き、声をかけました。Nさんはいつも変わらぬ笑顔で挨拶を返してくれました。認知症は少しずつ進行しているようでしたが、それは非常に緩やかなものでした。周りの職員も理解してフォローしてくれていたため、利用者さんに悪影響が出ることも全くありませんでした。

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