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【第7回】特養から自宅復帰を果たしたKさんとそのご主人 ~大きな決断、そして念願の帰宅~

ご主人の話は衝撃的な内容でした。特養は「終の棲家」と呼ばれるように、最期まで穏やかに過ごすことのできる場所です。退所されるケースというのは、ほとんどが「死亡」か「入院」です。さらに、どこの特養でも数百人単位の方々が入所を待っています。そのためせっかく入所できたのであれば余程のことがない限り退所など考えないのが一般的でした。

 

 しかし、ご主人がKさんのことを本気で考え、向き合ってそのような決断をしたのは素晴らしいことだと思いました。Kさんの少女のような笑顔がいつまでも私の心に残りました。

 

Kさんの自宅の改築は2か月後には完了しているということでした。そこで、その日に合わせて退所の準備を進めることにしました。Kさんはとても嬉しそうで、それまでの期間は今までになく穏やかなものでした。

 

 退所の日、Kさんは迎えに来たご主人と共に施設を後にしました。後に私はショートステイの相談員となり、利用者送迎をしている最中に偶然Kさんのご自宅を発見しました。少し珍しい苗字であったことと、門から玄関ドアまで長く伸びた真新しいスロープを見て、Kさんのお宅だということがすぐにわかりました。

 

 今、Kさんはご主人とご自宅でどのような生活を送っているのでしょうか。ケンカもしているかもしれませんが、きっと施設にいた頃より幸せなのだろうと思いを馳せます。私が特養に勤務した5年間で、在宅復帰を果たした方はKさんただ1人でした。それも、身体状況が改善したわけではないのにご家族が環境を整え戻れるようにしたということが本当に素晴らしいことだと思いました。誰にでもできることではありません。

 

 施設に入ったからそれで終わりではなく、その方が幸せな余生を過ごすためにどうしたら良いかという視点で考えれば施設入所者にもこのような道があるのだと改めて勉強させていただいたケースでした。

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