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【第7回】糖尿病のSさんと、好きなものを食べてほしい家族 ~Sさん家族の決断~

「今の私の立場からこんな話をするのはおかしいのかもしれませんが、幸せの形は人それぞれだということです。私たち家族は今お話した選択で後悔していないですが、同じ道を選んだら後悔が残る家族もいるでしょう。Sさんとは状況も病気も違いますしね。私が言いたいことは、決めるのはご本人とご家族だということです。」

 

カンファレンスを終え、それから数日は何事もなく平和に時間が過ぎました。そして、ある日奥様が面会の帰りに私のところへ来てこう言いました。

 

「あのあと、娘たちと話し合いました。それでね、お父さん(Sさん)に聞いてみようということになって。認知症もあるからちゃんとわかってはいなかったと思うけど、でも答えてくれたんですよ。『好きなものが食べられないんなら長生きしてもしょうがねぇなぁ』って。だから今まで通りにしようかな、って思ったんですけど、娘が『長生きしなきゃ私たちと過ごす時間も短くなるんだよ』って言ったら、『そいつは困るな』って。それでね、家族でもう一度話し合って、今までみたいなペースでお菓子をあげるのはやめようということになったんです。でも、時々…一か月に一回とか二回とか、特別な日だけとか。そんな日には解禁しようかなと思いまして。あの人本当に甘いものが好きだから、今後一切ダメなんて可哀想だし。時には調節のためにご飯を減らすとか、それでもいいのかなと思いまして。まぁ主人のご機嫌次第ですけど。」

 

奥様は、ふふふと笑いながらそう話してくれました。

 

「そうですか。ご家族できちんと話し合われて結論が出たのなら、良かったと思います。その方針で今後も私たちは支援させていただけたらと思いますので、困ったときにはいつでも相談してください。食事量の調節をしたいときなどもご相談いただければ対応できますので。」

 

「ありがとうございます。主人もきっと、これが一番いいと思います。やっぱり手足の切断とか、そんな怖いことをさせたくはないし。いろいろとご心配してくださってありがとうございました。」

 

その後も奥様は今までと同じペースで面会に来ていました。相変わらず夫婦お二人仲が良く、Sさんは笑顔が絶えない毎日でした。「何か甘いものない?」と介護職員に聞く回数が以前より増えたという報告がありましたが、大きなトラブルはなく、その後も穏やかに過ごしておられます。

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