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【第3回】 愛されキャラのお婆ちゃんと、面会に来ない家族 ~Mさんの変化~

面会についてはどのくらいの頻度で来ていたのか、記録がありませんでした。しかし、開設当初から働いている職員に聞いてみても、Mさんのところに家族が来ているのはほとんど見たことがないと言っていました。遠方なのかと思いましたが、娘さんの住所を見て驚きました。車で10分ほどの距離に住んでいるのです。こんなに近いのに全く訪れないというのは、やはり何か事情があるのだろうと思いました。

 

そして、私はその後相談員となりました。現場の介護から離れて半年ほど経った頃、Mさんの状態が徐々に変わってきました。食事がとれなくなってきたのです。

 

それまでMさんは、声をかけスプーンを口元へ持っていくと口を大きく開け、食事をする意思を示していました。嚥下状態も問題なく、むせたり詰まらせたりすることもほとんどありませんでした。しかし、徐々に口が開く回数が減り、最近では1日に平均して2~3割程度しか摂取できていないと報告がありました。

 

高齢者にとって食事がとれなくなるというのは、致命的なことです。しかも、風邪を引いていたり他の原因で一時的に食事量が落ちているということではなく、食欲が落ちるような要因や生活の変化がないにもかかわらず食事がとれなくなっていくのは身体が死に向かっていっていることを示しています。年齢的なこともあり、早急にカンファレンスを開くことになりました。

 

カンファレンスには、相談員である私と現場の介護職員、医師、看護師、そして長女のTさんが出席しました。Tさんはその日もサングラスをかけ、黒ずくめの恰好で現れました。

 

部屋に入るなり、「いつもお世話になっております。」とTさんは深々と頭を下げました。そして、全員が席につき、Mさんの最近の様子についてTさんへお話をしました。徐々に食事摂取量が減ってきており、このまま食べられなくなった場合にどうするかを考えていきたいこと。食べられなくなったときが寿命と考え、自然な形で最期を迎えることを望み何も処置しない人もいれば、水分のみの点滴を希望する人、栄養分も補う点滴を希望する人、いろいろな選択肢があることをお伝えしました。そして、施設でできることには限りがあり、施設でできない処置まで望むのであれば病院へ行く必要が出てくることなどもお話した上で、ご家族の意向をお伺いしました。

 

すると、Tさんは「先生方にお任せします。」と一言だけ仰ったのです。

 

これには、少し驚きました。「いえ、これはもう医療的にどう判断するかということではなく、ご本人やご家族がどうしたいかというお話なんです。何かを治療するという段階ではなく、最期の形をどう迎えたいかということなんですよ。私たちで決めることはできないんです。」私はTさんにそう言いました。

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