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【第3回】 特養から自宅復帰を果たしたKさんとそのご主人 ~本当は~

Kさんはご主人に対して日常的に疑いの言葉や嫉妬心をぶつけ、ご主人はほとほと参っているという状況のなか、Kさんが車椅子生活になってしまいご主人が自宅でトイレなどの介助をするようになりました。Kさんは頭がしっかりしているだけに介助されることを嫌がり、下着を汚してしまうことが増えたそうです。

 

ご主人はKさんより2歳年上でした。大きな病気もなく元気でしたが、年も年なので自宅での介護を続けていくことは難しいと判断し、特養への入所を決意したと言います。

 

ここまでは自然な流れです。確かに79歳になるご主人が1人でKさんの介護を続けていくことは体力的にも精神的にも難しいことでしょう。自宅にヘルパーなどを入れて負担を軽減しながら自宅介護を続けるという道もありますが、Kさんとの関係に嫌気がさしていたご主人がいきなり特養への入所を望んだことも全く理解できないわけではありません。

 

しかし、やはり本人に何も話をせず強制的に入所させてしまうという手法には賛成できませんでした。Kさんの気持ちは全く尊重されていないのですから。

 

入所してから1ヶ月以上経ち、Kさんはいつものショートステイではないということを確信したようでした。その頃ようやく、ご主人が面会に来たときにKさんに本当のことを話しました。ここは特養であり、死ぬまで面倒を見てくれる施設であること。自分はちょくちょく面会に来るから、ここで暮らしてほしいと。

 

Kさんはその事実を受け入れることができませんでした。「あの人は私を騙して施設にぶち込んだ。私をこんなところへ入れて、今頃他の女のところへ行っているんだよ。昔からずっとそうなんだ。」と、ご主人が帰ったあともKさんは怒りが収まらないようでした。

 

しばらくご飯を食べる量も減り、施設の玄関前に佇むようになりました。出て行くわけでもなく、玄関前にぼんやりと座り、訪れる面会者の顔を見て過ごす日々が続きました。私はそんなKさんを見ていられず、時間を見つけては外へ散歩に誘ったり外出計画を立てたりしてどうにかKさんの心に寄り添えないものかと考える日々でした。

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